脚本部 朝倉陽子

「アナーキーってバンド知ってる?」

2018年初夏、今作の共同執筆者である師匠・港岳彦氏にそう尋ねられたのが、

全ての始まりだった。


アナーキーのことは知っていた。

昔付き合っていたどうしようもない男がよく聴いていた。

そいつとの思い出と共に封印していたのに、こんな仕事断ってやる!

そう思いながら、ぼんやり【アナーキー】と検索。


マリが亡くなっていた。

それも6月4日に。

私の誕生日だった。

「もう分かった、やるよ」(偉そうにごめんなさい)と観念した。


まもなくして、プロデューサーのK氏と打ち合わせをした。

打ち合わせといっても、ほとんどアナーキーとの思い出話だった。

どのエピソードも強烈で、腹がよじれるほど笑った。

「でも、もうマリはいないのよね」

最後にポツリとそう呟いたK氏の横顔に、これは生半可な気持ちで

携わってはいけない、ちゃんと書かせてもらおう、ちゃんと描きたい

と思った。


そして藤沼氏と対面の日。

場所は、渋谷のラブホ街入り口にある会議室。

会議後、ホテルに連れ込まれまいと心の中で中指を立て、自分の持っ

ている服で一番特攻服に近い格好で向かった。

どうせ遅刻してくるだろう。

いいえ、時間ぴったりにいらっしゃいました。

そして「よろしくお願いします」とあの笑顔。

中年ロッカーのイメージは一気に覆され、会議後に「あの、写真撮って

貰っていいですか?」とパチリ。

血の盃を交わしたような気分で帰った(連れ込まれることもなく)。


そこから約3年に渡り、監督とはケンカしたり、ケンカしたり

、ケンカをさせてもらいながらシナリオを描かせて頂いた。

元々映画もお好きで、芸術的なセンスはお持ちであるように感じ

たが、相当勉強されていたと思う。

お会いするたびに【監督】になっていく姿に、いつも鼓舞されて

きた。


そしていよいよ撮影が始まった。

初めてづくしで疲弊しているだろう、励まそうと差し入れ片手に伺うも、

大物俳優陣に臆することなく演出、スタッフたちにも的確な指示、そして

誰よりも楽しそうにしていた。


藤沼伸一とは、一体何者なのだろう……


クランクアップの日、その答えが分かった。


今回の製作スタッフは皆、良く言えば個性豊かな面々が集まっていた。

アナーキーのメンバーだって、そう。

それを、まとめてしまうのだから。


藤沼伸一という男は、優れた猛獣使いだなと思った。


アナーキー好きだった昔の彼氏に自慢しようと数十年ぶりに連絡。

双子のパパになっていた。

「名前は?」

「マコとマユ」

「いや、そこはマリだろう!」


できることなら、一生完成させずに一生作り続けたかったくらい大切な

作品となった。


みなさま、そしてマリ、完成をお楽しみに。


ありがとうございました。


脚本部 朝倉陽子

1コメント

  • 1000 / 1000

  • 野良犬

    2021.03.29 18:22

    😊いい人です。